story

妹が死んだ。真夏の暑い日、溺死だった。

それは、忘れることの出来ない記憶となって、心に引っ掛かり続けていたけれど。
彼女が生きられなかったぶんも、自分が生きると決めた。
全てを懐かしい思い出として抱き、過去を受け入れ、前に進もうと。

その思いは、確かなものだった。

苦しい幼少期から時が過ぎ、毎日変わらず学校に通う日々。
また暑い夏がやってきて、少し“ 彼女 ”を思い出した頃。

遠くから聞こえてきたのは、妹が好きだった曲の、ピアノの音。
辿るように歩みを進めた先に、妹がいた。

「これから、よろしくお願いします」
「お兄ちゃん」

妹は死んだ。
その確かな記憶と共に目の前に現れたのは、妹にそっくりなアンドロイド、” トリノ ”だった。

人工知能を持つ人型ロボット―アンドロイドの技術が飛躍的に伸び、
少しずつ社会に浸透している現代。

その知能の研究で大きな功績を収めていた“ 紬木沙羅 ”は、新型アンドロイド、“ トリノ ”を完成させる。

見た目や動きは、人と全く見分けがつかない。
声もぬくもりも、人間そのもののようだ。

それから、このアンドロイドのもう一つ特別な点は―
“ 七波舜 ”の亡き妹、“ 七波白音 ”の記憶を持っているということ。

「おはよう、トリノ」
「あなたが―私が、世界を変える時が来た」