暗いトンネルの向こうに、光が見えている。
そのほんの一筋の光は、希望を表しているようにも感じた。
小さな村の、たった一つの出入口であるトンネルの目の前で、
「野々村優人」は空想世界の絵を描いていた。
光が届かないくらい遠い海の底に住む、人魚の女の子の画。
その日は、ふと顔をあげると目の前に彼女が ――
キャンバスの中と同じ、彼女がいた。
小さく、狭く、閉じた、絵本の中のような、その場所に。
そしてその村 ― 珠里村 ― も優人も、
その「真澄あい」という新しい住人を受け入れた。
―― 光に手を伸ばし、それを辿るようにして、着いた場所で。
新学期、春。
両親のいない優人にとって、入学式は憂鬱なイベントだった。
校門の前で写真を撮ったり、新入生入場の瞬間を
ビデオカメラに収めたり、特別な一日を親子で楽しむ。
その当たり前の景色が自分に欠如していることは
もう慣れてしまったことだった。
それでも桜の咲く前に、唯一の近しい親戚である
祖母を失ってからは、急に寂しさを感じることがあった。
そんな優人の孤独を知り、あいは自らの痛みを打ち明ける。
親に捨てられ、生まれながらの孤独を味わいながら、
自分の生きる意味を探しているあい。
父親を火災で亡くし、母と姉は行方不明。
村に取り残され、空想の絵を描いて現実逃避をする優人。
二人は真逆で、それから、よく似ていた。
距離は縮まってゆく。
優人は、ある後悔を抱きながら。
あいは、ある嘘を隠しながら。
秘密を抱えたままの二人が関わり、繋がり合おうとしていくたびに
その罪はより強いものになり、絆になっていった。
光には影が、あることを忘れたまま。